故・黒澤明氏が関東大震災についてこんな証言をしている。
大人たちが「朝鮮人が井戸に毒を入れた」と騒いでいるので「証拠はあるのか」と聞くと、「井戸にチョークで印がしてあるだろう。彼らの目印だ」という。
少年だった彼は唖然とした。
それは彼がした落書きだったからだ。
この話の典拠=黒澤明『蝦蟇の油: 自伝のようなもの』(岩波書店 1984年、その後文庫版も刊行されている)。
この話は、関東大震災時の朝鮮人虐殺を語る上で、デマがいかに現実を歪め、人々の行動を誤った方向へ導いたかを示す。
そして、現代社会においても、SNSなどでのフェイクニュースやデマの拡散が引き起こす危険性を考える上で、教訓となる。
デマが、いかに何の根拠もなく、しかも無邪気な行為ですら、特定の集団への憎悪と結びつけて、破滅的な結果を招きうるかを。