わたしは円形の仮面をつけた。これはいささか偶然である。円い仮面のまわりで、肉体もまるくこしらえるしかなかった。かくてわたしは «デブ» になった。――太陽劇団のある女優の回想。

仮面をつけるという行為は、芝居の役を請け負うことの具体物による喩えとなりうる。演劇だけでなく、人間社会で役割を持つことにも通じる。
人が社会で生きるとは、その社会で何らかの役割を負うことではないか。人間だけでなく、他の動物も。たとえばグループの中でのニワトリは、自分がそのグループで順位x位にいるという立場を自覚していなければならない。なんらかの理由でその自覚をなくしたニワトリは、グループの異物と化す。

仮面をつけること。演劇で役を演じること。社会でポジションを自覚すること。これらの行為は、それを行う者の全的自由を捨てることにつながる。
そうまでして、なぜ演劇を？

#黄金時代 #仮面 #道化と革命

引き続き「自由をわれらに」から。

《何よりもまず仮面は、«自然的なるもの» の «演劇的なるもの» への最初の置きかえである。«自然的なるもの» を演じている俳優からは、実際わたしは顔の上に窮屈な、死せるオブジェをつけた者という印象しかもてなかった。その反対に、この俳優が仮面を生かし、それに意味と律動を与えはじめる、「それに棲みつき」はじめるや否や、そのとき、ひとつの心像（イマージュ）が生まれ、別の顔が立ち現われ、不思議にもひとりの人物が出現してくるのだった。こういった人物を、わたしたちは俳優が選んだ仮面に従ってアルルカン、パンタロン、マタモール、ビゾニョゾオと呼んだ。わたしは彼らが何者であるか知らなかったが、見覚えはあった。》

仮面を付けて演技をはじめると、何かが起こる。そこまでは、抽象的にはわかる。だが、俳優が仮面に「棲み着く」とは？ いや、これも感じはわかるな。

#黄金時代 #道化と革命 #仮面

『道化と革命』中のエッセイ「自由をわれらに」（p.103-122）は、『黄金時代』でアブダラを演じたフィリップ・コーベールによるもの。全体の理解の鍵になりそうなので、じっくり読むことにする。

《われわれの時代に関するスペクタクルを、仮面の芝居をつかってつくるとアリアーヌが言ったとき、正直に認めなければならないが、彼女の提案の後半部にはわたしはまったく心惹かれなかった。顔の前に被せられることになる紙や革のあの切れっぱしは他のものよりはるかにわたしを悩ませることになるなと思ったものである。
　実際には作業が進めば進むほど、仮面をつけることが含んでいる諸法則を発見できた場合にそれが体得させる自由と力というものをわたしは実感するようになっていった。》

アリアーヌは太陽劇団の中心人物で演出家のアリアーヌ・ムニュシキン。
https://ja.wikipedia.org/wiki/アリアーヌ・ムヌーシュキン

#黄金時代 #道化と革命 #仮面

引き続き『道化と革命』から。
p.98に、同じくミショーの『アジアにおける一野蛮人』からとして次の引用。

《大空間が必要な場合には、彼はただ単に遠くを眺める。地平線が存在しなければ誰が遠くを眺めるだろうか？ 女が着物を縫わねばならないときには、彼女は直ちに縫いはじめる。ただの空気が彼女の指の間をさまよう。けれども、観客は実際の縫い物の感覚を経験する。（なぜなら、誰がただの空気を縫うだろうか？）。針は一方から入り、反対側へようやくのことででてくる。そして観客は現実以上の感覚を味わいさえする。》

ということなら、p.99の写真は針に糸を通してる演技なのか。いや、そうでもないか。巻末の説明には、《中国演技様式の酒屋の女主人》とあり。
それはともかく、上のくだりをどう理解するか。
舞台はシンプルに作れということだろう、装置も演技も含めて。
縫い物をするのに、針や糸はいらない。俳優はただ縫い物の動作をすればいい。
地平線の存在を示すには、俳優はただ遠くを眺めればいい。実際に地平線を容れられる大空間を用意する必要はない。

#黄金時代 #道化と革命 #アンリミショー

『道化と革命 太陽劇団の日々』を読む。
p.97-98にアンリ・ミショーの『アジアにおける一野蛮人』からとして、8件のパラグラフが引いてある。以下はそのうちの最初の2件。

《ひとり中国人だけが演劇表現の何たるかを知っている。ヨーロッパ人はもう長いこと何も表現していない。ヨーロッパ人はすべてを見せる。一切がそこ、舞台上にある。あらゆるものが何一つ欠いていない。窓から眼にする風景でさえも。》

《反対に中国人は、彼らが必要とする度合に応じて平野を、木々を、梯子などを意味するものを〔舞台上に〕置くのである。》

#黄金時代 #道化と革命 #アンリミショー

引き続き『道化と革命 太陽劇団の日々』
ナジム・ヒクメット名による30行ほどの詩が、序言の次に置かれている。以下はその一部。

わたしはこの世界にあまりにも早く来すぎたことを悔やんだことはない。
わたしは二十世紀の人間だ、
　　それを誇りとする。
二十世紀にあるというだけで、
　　われわれの陣営にいるというだけで
　　そして新しい世界のために闘う
というだけで十分だ。

二十世紀に生きているというだけで誇りに思う？　それだけでは時代ナショナリズムというようなものではないか。「われわれの陣営」とか「闘う」とかに留意して、戦っていることが誇りと解すべきか。
ヒクメットが何者かも、とりあえず不明。そのうちわかるだろうから、いまは調べない。

#黄金時代 #道化と革命