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#バイオミメティクス 推進協議会事務局長の平坂雅男氏によれば「世界の生物模倣市場は大幅な成長が見込まれており、24年には509億ドル、30年までに795億ドルの ...
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食品工場や厨房で肉などを加工する際には、作業台や器具の表面に付着した細菌の増殖が深刻な問題になりかねない。特に細菌などの微生物によって形成される生物膜のバイオフィルムは、工業施設で使用されるステンレス鋼の表面でさえも除去が困難であるとされる。作業台の表面に抗菌コーティングを施したり、頻繁に洗浄と消毒を実施したりと対策は講じられているものの、細菌の付着と増殖を完全に防げるわけではない。そこでニュージーランドの研究者たちは、金属の表面にレーザーを照射して微細なテクスチャーを生成することで、細菌の付着そのものを物理的に防ぐ加工技術を開発した。「レーザー加工された表面は、細菌の付着や増殖、拡散を物理的に妨ぐことで抗菌性を実現しています」と、ニュージーランド政府のイノベーション支援機関であるCallaghan Innovationのセバスティアンピライ・レイモンドは説明する。「これらの微細なテクスチャーは、セミの羽やサメの皮膚に見られる天然の抗菌構造を模倣したものなのです」化学薬品に頼らない抗菌対策セミの羽の表面は、数十ナノメートルの微細な針のような突起が無数に並ぶ構造だ。このナノ構造に細菌が接触すると、細胞膜が引き裂かれて細菌が死滅すると考えられている。さらに水をはじく撥水性も高く、細菌が表面に付着しにくい特性をもつ。また、サメの皮膚は楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる特殊なうろこで覆われており、その表面にはミクロスケールの細かな溝が並んでいる。この溝によって体表の水流がスムーズになり、細菌や汚れの蓄積を防いでくれるという仕組みだ。レイモンドらの研究チームは、「レーザー表面テクスチャリング(Laser-Induced Surface Texturing)」と呼ばれる手法を用いて金属の表面にマイクロスケールやナノスケールの凸凹をレーザー加工によって形成することで、細菌が付着しにくい構造をつくり出すことに成功した。この表面加工には金属が撥水性を変化させる作用もあり、細菌の増殖を抑制する効果も期待できるという。研究者たちは今回、この表面加工が細菌の付着を抑制する効果を検証するために、大腸菌(Escherichia coli)とBrochothrix thermosphacta(肉や魚を腐敗させる細菌)を対象に、加工済みの金属表面と未加工の表面に残存する細菌濃度を比較した。具体的には、これらの細菌を金属の試験片につき約8Log CFU(Logは常用対数、CFUはColony-Forming Unitの略で細菌数を示す指標)の高濃度と、約5Log CFUの低濃度で付着させた後、それぞれの表面に残存する細菌濃度を測定した。その結果、Brochothrix thermosphactaに対しては、レーザー加工を施した5種類の表面のうち1種類が高濃度の条件で細菌の付着を有意に抑制し、低濃度の条件では4種類の表面が明確な効果を示した。同様に大腸菌に対しても高濃度の条件で3種類、低濃度の条件で4種類で有意な抑制効果を確認できた。レーザー表面テクスチャリングによって金属の表面を加工した例。セミの羽やサメの皮膚の構造をヒントにつくられた。Photograph: Sebastiampillai Raymond