杉浦日向子の『吉良供養』は、時と所を赤穂浪士討ち入りの夜の吉良邸に限定し、おもに吉良側の人々の動きと生死をドキュメンタリー風に綴った上下16ページずつの漫画作品。サブタイトルは「検証・当夜之吉良邸」。下巻の表題ページに「東都神田青林堂上梓」「壱千九百八拾壱年拾壱月」とあり、初出は雑誌『ガロ』か。現在、ちくま文庫『ゑひもせす』所収。
その「検証」によると、公の調書では吉良側の死者16名、負傷者23名、ただし重症で落命する者が多く、検視後には死亡23名、負傷16名と逆転した。いずれにしろ家中の約半数が死傷する一方で、浪士側は46名が討ち入って全員生還。浪士の原惣右衛門は「敵対して勝負仕り候者は三、四人許り、残りの者どもは立合に及ばず、通り合せに討捨て」との証言を残し、杉浦は「完全なワンサイドゲーム」とした。
タイトルの謎。なぜ「供養」なのか。
ワンサイドゲームに終わった殺し合いの結果を再現することが、敗者側の供養になるのか。
ぶざまな所業を蒸し返された斎藤宮内は、これで供養されたことになるのか。
「忠臣蔵」という国民的物語の中で名誉あるポジションを与えられていた小林平八郎は、こんな死に方を暴露されて供養されたといえるのか。