踏み削られ、形を変え、しだいに小さくなってゆく。それがここにあるこの岩の、どうにもならない運命だ。どんなにもがいてもその枠からぬけ出ることはできない。人間にも同じような運命からぬけ出ることができず、その存在を認められることもなく、働き疲れたうえ、誰にも知られずに死んでゆく者が少なくないだろう。【おごそかな渇き】#fedibird #日本文学
「権力による政治がもし人間を不当に殺すなら、そういう政治は打ち毀さなくてはならない、不正な政治の下では学問だって満足に成長しやあしない、おれたちはそれに眼を塞いでいるぞ」【天地静大】 川上和助#fedibird #日本文学
「わたくしいつもあなたが欲しかったんです、あなたのぜんぶを、残らず、いつも自分のものにしておきたかったんです」と律が云った、「それなのにあなたは、いつもわたくしから遠いところにいらっしゃる、寝屋をともにして、からだは手で触れているのに、あなた御自身はそこにいない、からだがそこにあるだけで、あなたはいつもいないんです、わたくしは本当のあなたという方に、いちども触れたことがありませんでした」【樅の木は残った】律#fedibird #日本文学
おれはここで寝起きしながら、ぼて振りをし、夜泣きうどん屋をした、おれはここからぬけだすが、一生このようにして生きてゆく人たち、一生このような生活からぬけだすことのできない人たちが無数にいるのだ、ここには動かしようのない事実がある、おれは生涯この事実を忘れないぞ【ながい坂】三浦主水正#fedibird #日本文学
「――なにごとも人にぬきんでようとすることはいい、けれども人の一生はながいものだ、一足とびに山の頂点へあがるのも一歩一歩としっかり登ってゆくのも結局同じことになるんだ、一足跳びにあがるより、一歩ずつ登るほうが途中の草木や泉やいろいろな風物を見ることができるし、それよりも一歩一歩を慥かめてきた、という自信をつかむことのほうが強い力になるものだ、わかるな」【ながい坂】#fedibird #日本文学
五十四年もおめえ、使いっきり使ってきた軀だ、そうじゃねえか、それでどこにもあんべえの悪いところがねえとすれば、そのほうがよっぽど奇天烈だ、そいつは鬼か魔物くれえのもんだ【瓢かんざし】#fedibird #日本文学
「生きることはむずかしい」暫くして、郷臣は囁きのように云った、「人間がいちど自分の目的を持ったら、貧窮にも屈辱にも、どんなに強い迫害にも負けず、生きられる限り生きてその目的をなしとげることだ、それが人間のもっとも人間らしい生きかただ、ひじょうに困難なことだろうがね」【天地静大】水谷郷臣#fedibird #日本文学
人間はいつかは死ぬのである、いかなる富も権力も死からのがれることはできない、営々五十年の努力は金殿玉楼を造り権勢と歓楽を与えるかも知れないが、いちど死に遭うやすべてあとかたもなく消え去ってしまう、この世にあって存在のたしかなるものはまさに「死」を措いてほかにないのだ 【荒法師】#fedibird #日本文学
「人間というものは」と宗岳も茶碗を取りながら云った、「自分でこれが正しい、と思うことを固執するときには、その眼が狂い耳も聞えなくなるものだ、なぜなら、或る信念にとらわれると、その心にも偏向が生じるからだ」【ながい坂】#fedibird #日本文学
ただ繰り返して云うが観ることを忘れぬように、いいか、――自分の勘にたよってはならない、理論や他人の説にたよってもならない、自分の経験にもたよるな、大切なのは現実に観ることだ、自分の眼で、感覚で、そこにあるものを観、そこにあるものをつかむことだ【正雪記】#fedibird #日本文学