ダンス
わたしは真っ白なカーペットの上に足を踏み出す。
ここが今日のダンスの舞台だ。
お相手を探してゆっくりと歩く。胸を張って、堂々と。
背を伸ばし、天をあおぎ、大声で名乗りをあげる。
「さあ、わたしと踊ろう」
ひとりが歩みより、ピンと背伸びをして答えた。
「踊りましょう」
これがダンスの始まり。
ステップ、ステップ、ステップ。交差して、優雅に飛び跳ねる。
くるりと振り返って、大きく手を開くと、高く飛んだ。
その場で追いかけあいうように、くるくると回る。
彼女はわたしの背にのって、華麗にジャンプ。
だんだん、息の合ったダンスになる。
ああ、楽しい!
彼女とならきっといつまでも踊れるはずだ。
わたしは彼女に深々とおじぎをした。彼女も頭を下げて返す。
わたしたちは横にならび、ゆっくりと言葉を交わした。
このひととなら、生涯をともにできるはずだ――。
わたしは恋に心をときめかせた。
二月、釧路。
タンチョウのダンスが見られる季節だ。
港
港のある街で母は生まれた。
海の見える坂の上の学校に通っていたのだという。
湾になった海は大きく深く、大型船の入れる港だった。
そんな街で、祖母は母を育てた。
船を回って働き、市場に行って働いていたのだという。
「死んだら海の見えるところがいいなあ」
私を産み育てたところは内陸の盆地で、海など見えないところだった。
私は海がないことが普通で、でも母にとっては違ったのだろう。
骨壷を持って急な坂を登る。
例えばマニュアル車なら途中で止まれないほどの坂だ。
その坂を登りきった先に、母方の墓地があった。
振りかえれば海が見える。
紺色の冷たい海が、白い波をたてている。
海風が吹き上げ、頰がベタベタとする。
強い潮の匂いが体にまとわりついた。
これが母を形作っていた景色。
戻って来れてよかったのだろうか。
それは私にはわからないけど。
港のある街は、綺麗だった。
みなさま、たいへん、たいへんありがとうございます…