お仕事の日
今日はSFマガジンに連載している〈宇宙島年代記〉の「幽霊船」第二話のゲラをやっていました――と書いて、意味がわかる人もあんまりいないと思うので解説します。
まず用語、ゲラです。これは印刷見本のことです。ゲラは英語のgalley、ガレー船のガレー由来の言葉です。アメリカの印刷会社で印刷見本を入れていた平底のトレイがガレー船を思わせたことから、印刷見本そのものをgalleyと呼ぶようになりました。今でも英語圏の出版関係者にはgalleyで通じます。作家相手なら「I’m gonna galley」ぐらいダメな英語でも「ゲラを止めてる(I hold galley)」でも、どんなパーティーの誘いも断れるぐらい通じます。
次に「ゲラ」が何なのか説明しておきましょう。これは印刷用の組版が終わったプリントアウト、またはそのデータのことを指します。私は作家になって13年ほど経ちますが紙のゲラを二回しかやったことがないので私にとってのゲラはPDFです。モノはこういうやつです。
「常夏の夢」ゲラ
ワープロの印字ではなく、印刷のために組版された状態になっています。印刷見本なので、用紙サイズを示すトンボがつきます。この印刷見本に編集者が指摘事項や提案、校正が入った時は校正の指摘を書き込んでくるので、著者はその指摘をどうするか決めていきます。上の画像で言うと「わかる」が他のページで「分かる」になっているけどどうしますか? とエンピツで聞かれているので「わかる」に統一すると赤字で書いて返します。
この作業を原稿を通して行うことを「ゲラをやる」と呼びます。作家によっては違う呼び方をするかもしれませんが、私はそう呼んでいます。
というわけで話がようやく戻ってきました。今日は〈宇宙島年代記〉のゲラをやっていたわけです。発売日は二週間先なので、ギリギリのスケジュールです。ここまで引っ張ったのはひとえに私の原稿が遅れたせいなので本当に申し訳ない。加藤直之さんには素晴らしい絵を描いていただきました。もう家宝ものです(SFマガジンをお楽しみに!)。
高校生たちのはお話なので、瑞々しさを忘れないように、いつもの私の作品みたいに感情を抑え込まないように、そして読者にも宇宙生活しているかのように感じて欲しいので、いつものようにディテールをぎっちりと書き込んでいます。皆さんの感想を聞くのが楽しみです。
そして今日はもう一つ、『マン・カインド』の外国語翻訳者からの質問に答えるメールを書いていました。いつもそうなんですが、翻訳でミスが見つかるんです。校正頑張ったはずなのになあ……と言ってもしょうがないので、矛盾が矛盾にならないような記述を考えて翻訳者に送り返します。今回はCodexと一緒にやりました。原稿のあるプロジェクトのなかで翻訳者の質問をCodexに伝えて、質問に関係する場所を原稿から抜き出してもらい、最小の修正で矛盾が消えるような方法を考える。20万文字の中から、自分でも忘れてる文章を抜き出してくれるのはAIならではです。逆に判断は全く任せられません。商業出版であるとか翻訳であるとか、すでに発売されている本だとかいうコンテキストを読み取りきれず「僕の考えた最強の解決策とSF設定」を披露し始めるのです。しかも面白くない。今はまだアシスタントに徹してもらう方がいいですね。
そしてwithの改良。今日はiPad版の画面を作り込んでいました。実は最近iPadを使っていないのでエミュレーター頼み。システム標準の機能で作り込んでいますが、普通に作り込むだけでmacOS版と遜色ない編集画面が出来上がってきます。アウトライン編集機能にもUndoがついたので、あとはiCloud周りとか出力周りとか整備していく、リリースに向けた開発だけになってきています。
withのアウトラインのUndoはファイル操作を含むので結構ナーバスだったんですが、iOSだとバックグラウンド動作にちょっとしたやり残しをおいておけるので、思っていたよりも楽に実装できました。ユーザーがQuitできるmacOSの方が怖い。デスクトップよりも処理の面で楽できたのはちょっと意外でしたね。
というわけで、withも着々と進んでいますし小説もやっています。Xでは小説で食えない話が盛り上がっていますが、書店の本棚が短くなり、国民の財布が軽くなっていく中で、構造的に収入が増えるわけもないので何か別のこと考えなきゃではありますね。
例えばアプリ売るとかね。
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